早稲田大学坪内博士記念演劇博物館
館長 竹本幹夫
このたび、下館和巳氏の主宰するシェイクスピア・カンパニー『破無礼~奥州幕末のハムレット』公演を実現できたことを心からうれしく存じます。
日本語の「劇のことば」はどうあるべきか、ということには非常に難しい面があります。なぜなら、多くの文学作品は文語体(文章体の現代語)で書かれるのが前提であり、戯曲作品もまた同様である場合が多いからです。しかしながら、「劇形態の文学作品」としての戯曲と、「実際に舞台で上演される」演劇台本とは、おのずから異質であり、両者には大きな隔たりがあるのです。とくに後者については、文章語ではない「生きたことば」でなければ、舞台上でセリフとして語るには足りないのです。これは多くの「戯曲」作品が、上演に際して一時的に改訂される場合のあることからも明らかです。
シェイクスピア・カンパニーは、東北弁でシェイクスピアを演じるという立場を一貫して守ってきました。「東北弁」は、かつては「田舎ことば」の代表のような不当な扱いを受けていましたが、実際にそのことばに接した私の経験から申しますと、きわめて優美な、いわゆる「あたたかな」印象のことばであり、心にしみいってくるような深い響きをたたえています。この魅力的な、生きたことばで語るハムレットとオフィーリアを想像しただけでも、期待が大きくふくらみます。今回は前作からさらにリニューアルされた90分のバージョンということですので、ちょうど大学の授業時間と同じ長さです。早稲田の学生諸君にも強いインパクトを与える舞台となることでしょう。
幕末の奥羽地方は、奥州列藩同盟の亀裂と緊張という、まさに近代日本の幕開け直前の動乱期にありました。私たちの生きる現代へと直接つながる、苦悩に満ちた時と場所とが、シェイクスピアの作品を通じてどのように描かれていくのか、皆さんと共に楽しみにこの芝居を迎えたいと思います。
この度の公演は、校友会設立125周年事業の一環として、文化推進部が企画いたしました。末筆ながら、今回の公演を快くお引き受け下さいました下館和巳氏をはじめシェイクスピア・カンパニーの皆さんに、あつく御礼申し上げます。
シェイクスピア・カンパニー
主宰 下館和巳
このたび、校友会設立125周年という意義深い時を祝する企画に加えていただきましたこと、身に余る光栄と劇団員一同感激いたしております。
私たちの劇団にとっていつも仰ぎ見る存在である坪内逍遥の名前を、最初に体がしびれるような感覚を持って耳にしたのは、他ならない早稲田大学の大隈講堂でした。「坪内逍遥は、明治初期に25歳でシェイクスピアの翻訳を始めてから、死の直前74歳でその仕事を終えるまでの五十年間、たった一人で、苦心惨憺して文語訳から口語訳までの道を歩いて、その足跡を私たちに残してくれました。ですから逍遥あっての、今の日本のシェイクスピアです・・・」とつとつと、しかし、熱くこう語ったのは木下順二です。私は大学一年生でした。今でも昨日のことのように思い出されます。その日早稲田の古本屋ではじめて水色の小さな逍遥訳『ハムレット』を手にしました。それから折に触れて一冊ずつ求め始めて、全40冊が揃ったのは私がまさに仙台に帰る直前の28歳の時です。
逍遥のメッセージ、それは一言で言えば、演劇への愛だと思います。「芝居が面白くて面白くてしやうがなかった」その青年は、結局、日本の外に一歩も出ることなしにシェイクスピアの神髄をわしづかみにしました。それは奇跡のような出来事だったといえます。その正確さにおいて今でも逍遥訳の右に出るものはおりません。しかし、その神髄は逐語訳というところにあるのではなく、原文のせりふの音、その音がかもし出す雰囲気と味わいというものにぎりぎりまで迫って、それを「今」の日本語に移し変えようとしていたことです。その気迫と努力、そして実行力。もし逍遥が生きていれば、一番今の時代に合ったせりふをハムレットに語らせていたに違いありません。ですから、東北に生きる私たちに思い浮かぶ問いは「今、東北で、シェイクスピアを上演するとしたらどんな言葉で?」ということでした、
逍遥の心には、いつも刻々と昨日になっていく今、その今にいきいきと舞台で輝くシェイクスピアがありました。私たちもそういう舞台を創っていきたいと願っています。今日は、逍遥の愛した早稲田で、満腔の敬意を表して誠心誠意の上演をさせていただきたいと思います。
役名(ふりがな) | 原作名 | 役者名 |
天馬破無礼(てんまはむれ) | ハムレット | 岩住浩一 |
真田依璃亜(依璃亜姫)(さなだえりあ) |
オフィーリア | 星奈美 |
天馬鞍有土(てんまくらうど) |
クローディアス | 犾守勇 |
天馬雅藤(雅春院)(てんまがとう) | ガートルード | 長保めいみ |
真田礼亜(さなだれいあ) |
レイアーティーズ | 両国浩一 |
亡霊 |
亡霊 | 両国浩一 |
真田蓬呂(さなだほうろ) |
ポローニアス | 戸田俊也 |
墓掘り |
墓掘り | 戸田俊也 |
細谷帆礼(ほそやほれい) |
ホレイショー | ササキけんじ |
玉虫右太夫(たまむしうだゆう) |
ヴォルティモンド | 皆川洋一 |
神谷草人(かみやそうじん) | 俳優1 | 長谷川景 |
翻訳・脚本・演出 | 下館和巳 |
構想協力 |
丸山修身 菅原博英 鹿又正義 |
構成・制作 | 山路けいと |
音楽・音響 | 橋元成朋 |
音響プラン | 小笠原博正 |
照明 | 松崎太郎 |
照明協力 |
山内佑太 佐野美和子 |
舞台美術 | 庄子陽 |
舞台装置 |
梶原茂弘 千葉安男 |
ポスターデザイン | 佐藤正幸 |
アドバイザー | 松田公江 |
スーパーバイザー | 大平常元 |
制作 | シェイクスピア・カンパニー |
名畑目雅子 石田愛 高橋文 要トマト 千葉妙子 梶原祥子 塩谷豪 武市奈緒子 須藤礼子 小嶋祐美子 渡邉欣嗣 藤野正義 青木依里