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心のふるさと鳴子温泉

更新日:2013.2.2

主宰 下館和巳

 

 鳴子温泉の早稲田桟敷湯で公演をした。『新・ロミオとジュリエット』の産湯に、いやそうじゃない、子宮に戻ってきたような心もちである。

 「伊田利温泉郷」は「イタリア」に、「舌奈温泉」は「ベローナ」に由来していることは、言うもでもないことだけれども、説明されてはじめて「なるほど~」とうなずく人もいれば、説明されてもイタリアはまだいいけれどもベローナなど聞いたこともない人にとってはどうでもよくて、よく知っている人もほくそ笑む人と、ばかばかしいと思う人がいる。「舌」は仙台の方言で「べろ」というから「シタナ」ではなくて「ベローナ」なわけである。そうすると、「牛タン」などは「べごべろ」だ。なんだかあんまりおいしい感じがしないから、仙台名産だけれども、標準日本語と英語のタングの合体した今のまんまでいいかもしれない。

 私は鳴子が好きだ。なぜか?好き嫌いに理由はない。でも、理由があるとすれば、就学前に体の弱い母方の祖母の湯治に付き添って半年ほど暮らしていたことがあるからだと思う。だから硫黄の匂いも街なみも山の景色もみんな懐かしい。私にとって、太陽が英語でザ・サンと言うように鳴子はザ・オンセンだ。

 そして、早稲田桟敷湯のあの遊び心に溢れている場!あの魅惑の空間は、私たちの想像力を刺激する。ワクワクさせる。旅館大沼の女将さんの粋の華のような姿、吉田館長さんのこどものような笑顔、小花蕎麦の若旦那のシェイクスピアを語る熱・・・

鳴子は温泉だけじゃなくて人も横綱なのである。

 新作喜劇の舞台がそもそも温泉になったのは、『お気にめすまま』の脚本を書こうとした時(2000年11月)に次女が生まれ、生まれたのはいいのだけれどダウン症という障害を持っていて、更にその合併症として白血病になって、大学病院で一年近く過ごしていたことに深く関わっている。命が消えそうな小さなドングリのような娘。その娘を毎日看病しながら、そうだ『お気にめすまま』の原文を英語で音読しよう、創楽(「太陽」と「ひとりで楽しみを創る」という意味を込めて「そうら」という名になるのだが)に聞かせてあげよう!と思って読み始めた。小さな病室で七日間ひたすらシェイクスピアを自分の声に乗せた。そのうちに心に浮かんできたのはなぜか温泉、つまり鳴子温泉だった。気がつけば私はドングリ創楽を抱きながら遊んでいた。湯につかったり、歌ったり、踊ったり、栗団子を頬張ったりしながら。

 「アーデンの森」ならぬ「空想の蛙田温泉」で、私は創楽とふたりきりで遊んでいるうちに、いろいろな人たちが集まってきて、ぐんぐんにぎやかに楽しくなっていった。現実があまりに厳しいと人は逃げ出したくなる。でも逃げ出せない時は、夢を見るしかないんだ、ということを私は創楽から教わった。