石巻で
更新日:2012.11.20
主宰 下館和巳
海産物屋の父は、仕事によく子供を連れて歩いた。三兄弟の中で一番父にくっついて歩いていたのは私だったので、石巻にも、女川にも、牡鹿半島にもよく行った。父は仕事の間に、私をひとり海っぺりで遊ばせていることがあって(そのことを後で母が聞いて父が叱られていたけれども)、私は海が好きだったので嬉しかった。おじさんが釣りをしているのを見たり、岩場で小さな海の生物を見たりしていると、あっという間に時間が過ぎた。
仕事から戻ると父は、石巻のは一番うまいといって、毛塚や白謙のかまぼこを食べさせてくれた。父とふたりで岸壁に腰掛けてかまぼこを食べながら、大好物のイチゴ牛乳を飲んでいると、なんだか嬉しかった。
その石巻で、石ノ森萬画館が再開するまさにその日、公演をした。場所は、萬画館のちょうど川向こうにある湊荘さんで、そこの温泉旅館の広間にあるような小さな舞台がまた私たちのお芝居にぴったりだった。寒いうえに雨だったけれども、小学生からおじいちゃんおばあちゃんまで、たくさん来てくれた。始めに私が舞台からちょっとおりた畳の上に座布団を置いて落語家よろしく座って、10分間ほど方言を交えて、シェイクスピアと『ロミオとジュリエット』の話をする。皆さん、うなずいて笑って、熱心に耳を傾けてくれました。「それでは、番頭さんの三吉さんを呼ぶがらね。三吉つぁ~ん」。すると、腰の曲がった三吉さん(実は高校3年生なのですが!)が微妙に頭をふりながらゆっくり登場。お客さん、たちまち拍手。幕が開いて(幕のある所での公演もそう言えば初めて)随所で流れる歌にまた拍手と手拍子・・・という風で、あったかいあったかいお客さんでした。
お芝居が終ると、まんじゅうとお茶っこの交流会です。「どうなるんだべって思ったら、生きがえってね~いがったいがった」「じいちゃんとの昔ば思いだしました」「若いひとだずはいいねや」「なんだが温泉さ入りさ来たみででいい気持ちでした」という声。そして衣装とメイクをつけたままの役者たちとお客さんたちの笑顔を見ながら、私はこういうのいいな~、としみじみ思いました。