下館和巳のイギリス日記




Vol.22   2003.9.16

       まだこわい叔父さんたちのいるイギリス

 恥ずかしい話だが、僕はイギリスで何度か、叔父さん(お爺ちゃんといったほうが よいかもしれないが)に叱られた。

 ある夜、芝居のはねた後に急ぎ足で出口に向かった時の事だ。どうやら僕は一人の レディの肩に触れて、押しのけるような形で前に進んだようで、老紳士が小走りに僕 を追いかけてきて、「君、紳士というものは常にレディの後に、が常識ですぞ」と柔 らかく意見された。

 芝居を見ていたある晩、退屈で眠かったこともあって、僕はしばし椅子の上で体の 位置を変えた。すると、右隣りの老紳士が、小声で僕に囁いた。「君は落ち着きがな い男だね。静かに座ってなさい」さすがに僕も、なんでこの叔父さんに意見されなき ゃないんだ、と憮然となったが、そのすぐ後に、もう一度僕に囁いた。「ソーリー」。

 ある朝、娘を小学校に見送るために慌しく家の扉を開けて歩道(我家のすぐ前にある のだが)に飛び出すと、左から歩いてきた老紳士とぶつかりそうになった。すると、そ の叔父さんは僕と娘を並べて、延々と歩道に隣接する家の扉の適切な開け方と、家の 出方について説教し始めたのだ。

 ある時、娘と散歩していたら、その同じ叔父さんが猛スピードで近所の道を走る車 を止めて、若い運転手を叱っているところに出くわした。僕は、ちょっとホッとした のだが、娘は「あの叔父さんに叱られるようなことしちゃだめだよね、パパ」 と。

 僕が、小学生の頃は、日本にもあんな叔父さんが一杯いたっけな、と思い出しつつ、 イギリスの社会の健全さをうらやましく思った。