Vol.18   2003.8.13

 あのバリー・ルッタ-に会う

 ノッチンガムから一時間ほど北に向かった森の中で ルッターさんに会った。まるでチャタレー夫人とそ の恋人の密会みたいだが、実はただルッターさんの今年 最後の芝居『ヘンリー5世』の公演会場が森のど真 ん中だった、というだけの話である。

 バリー・ルッターさんはイギリスで初めて北の訛り でシェイクスピアを上演する劇団を創った、役者でも 演出家でもある人物だ。創設は奇しくもシェイクスピア・ カンパ二―と同時期である。

 公演の直前と休憩時間に、二人はまるで兄弟のよ うに喋りあった。こんなに考え方が似ている人間が いるというのが僕には不思議だった。

 ルッターさんは、がっしりとした中背の、眉毛の濃 い50なかばの、えらく元気のいいおじさんで、声が セクシーである。「日本にはハムレットの墓堀り役で 行ったことがあるよ」と言う。

 僕は、この人に今までいくらでも会う機会があった はずなのだが、ようやく会う気になって会えたのが 今だった。やっぱり季節があるんだね。

 別れ際に、ルッターさんは、魅力的な北イングラ ンド訛りで、言った「カズミさん、いづが一緒にやるべ な!」と。