「ロミオとジュリエット」は喜劇だったんですか?(No.2 Summer 1995)

シェイクスピア・カンパニー主宰  下館和巳

 原作のタイトルは“The most excellent and lamentable tragedy of Romeo and 
Juliet”(「最もすぐれた、そして最も悲しいロミオとジュリエットの悲劇」)です。
つまり、シェイクスピアは「ロミオとジュリエット」を悲劇として書いたということ
です。恋人達の運命は恋が始まったその瞬間から死に向かっているということを、私
達は冒頭のコロスの言葉によって知らされます。二つの名門の家の怨念が、その家の
子供達の恋をも命をも奪い、二人の死の悲しみの内に和解が生まれ、憎しみはふたり
の亡骸とと共に、墓に埋められる。

 こうして大筋を描くと、この物語は紛れもない悲劇です。しかし、この悲劇にはあ
かるさがあります。二時間のドラマを貫く死の運命の糸を忘れさせるあかるさです。
それは、ロミオとジュリエットが若いからでしょう。ふたりの恋が一途だからでしょ
う。そして、おそらく何よりも、ロミオとジュリエットを取りかこむ登場人物達のひ
とりひとりが、生き生きと描かれているからです。この生の輝きが、私達にヴァイタ
リティを感じさせ、笑いさえ引き起こすのです。

 シェイクスピア・カンパニーの「ロミオとジュリエット」を見ていただいて、もし、
これは喜劇だったっけか?と疑問に思われるかたがいらっしゃるとするならば、それ
は、その命の輝きを、私達がほんのすこしばかり強調したからと、思っていただけれ
ばよいと考えています。