更に新しいシェイクスピアに向けて(No.18 Summer 1999)
主宰 下館和巳
今年から、カンパニーは四大悲劇に突入します。これまで、私たちは創作年代順に上
演してきましたが、自分たちで作ったルールをここで敢えて破って、『マクベス』から
始めます。何故『ハムレット』ではなく『マクベス』なのか?と申しますと、一つは、
私たちが来年計画している海外公演の場が、スコットランドのエジンバラであるという
ことです。となれば、『オセロ』でも『リア王』でもなくスコットランドを舞台にした
『マクベス』が最適だろうと。
もう一つのわけは、まだ経験の浅い私たちが、『ハムレット』のように複雑な長編に
いきなりぶつかっていくよりは、シェイクスピアの悲劇観が煮詰まっていて、ドラマが
単純明快、そしてかつ短い作品にまず揉まれるほうがよかろうかと考えたからです。例
年であれば、八月に野外公演、九月中旬に仙台公演の予定なのですが、今年はこの春に
亡くなった私たちの大切な仲間高橋明久が残してくれた「この作品には初心に返ってじ
っくり取り組んで欲しい」という言葉を心に秘めて、本公演を十二月に延期しました。
ですから、いつもの倍近くの稽古を通しての芝居づくりになっています。私たちは半年
がかりで木下順二訳『マクベス』と原文を使って、『マクベス』におけるせりふとイメ
ジャリの意味と効果について議論し合い、理解を深めると同時に、身体と声のワークシ
ョップを続けてきました。
脚本は五月末に完成しましたが、これまでとは違って、脚本の原案は私の長年の友人
で作家でもある丸山修身氏とのコラボレーションで練られました。鬼首温泉にこもって
のしぶとく熱い議論の果てに辿り着いたのは、東北の古代から中世の転換期に起きた前
九年、後三年の役から藤原三代までの歴史のエッセンスをベースにした恐山の『マクベ
ス』です。ダンカンは藤原弾家、マクベスは清原播部蘇、バンクォーは安部磐乎、そし
て魔女たちはイタコ…という風なまさに東北版『播部蘇』です。せりふは八割が仙台弁
を基調として東北各地の方言を織り混ぜたもので、共通語と東北弁が半々であったこれ
までの作品とは大きく異なります。
東北弁の『マクベス』は悲劇になるのか?それが東北各地で、はたまた外国でどう受
け止められるか?私たちの新たな挑戦が今始まったばかりです。どうぞご期待ください!