下館和巳
第十一幕
「恐山のマクベス」
プロフィール
1955年、塩竃市生まれ。
国際基督教大学・大学院
卒業。英国留学を経て東
北学院大学教養学部教
授。比較演劇選考。シェ
イクスピア・カンパニー
主宰
芝居は基本的に観客がいなければ成り立たない。数人の観客でもいいが、多
ければ多いほど劇場は熱気を帯びる。
私たちの仙台公演は、初演から141ビルのホールを使っている。 そのわけは、
街の中心にあって交通の便がいいことと、芝居を見たついでに買い物やらなん
やらが、いや買い物やらなんやらのついでに芝居が見られるからだ。 もうひ
とつは、収容人数が200人程度とこぢんまりしているからだ。観客が役者とひ
とつになれる親密感は、特に東北弁を聴いてもらう芝居をしている私たちのよ
うな劇団にとっては、とても大切だ。
私たちの芝居は大抵2時間ほどだが、休憩時間はない。 お客さんに途中で帰
ってほしくない、という思いから始まったことだが、いうまでもなく、こりや
時間の無駄だと思えばいつでも席を立てる。ワインを無料で飲んでいただいて
いるのは(ちゃっかり2、3杯飲む人もいる)、芝居はホロ酔いで見るくらいが
ええ、と思うからだ。近頃はハンドバッグにおつまみを忍び込ませてくるお客
さんがいるから、なんだか楽しい。ビールやウ-ロン茶も出してほしいという
要望もあるが、きりがないので今年もワインだけでいこうと思う。
最近は、東北弁のシェイクスピアが見たいと、東京や関西からもお客さんが
やってくる。方言はチンプンカンプンだけど、方言を喋る役者を見て、ゲラゲ
ラ、コロコロ笑っている地元の観客たちを見ているのが面白い、という。こう
いう意見を耳にすると、芝居は役者とお客さん、そして劇場の雰囲気からでき
るんだな、としみじみ思う。
うまい芝居はいっぱいあるから、いっつも初々しい舞台を見せて、という声
もある。こりゃ大変だ。舞台を積み重ねれば少しはうまくなる。だが、臭くも
なるし、腐れかけもする。いっつも新鮮でいるには、どすたらいいんだべ。
まず、私たちが創ることを楽しんでワクワクしていることだ。お客さんと一
緒に芝居を産んでいくという気持を忘れないことだ。役者は自分の演じる登場
人物を愛して、そのイノチを精一杯生きることだ。芝居を離れた普通の生活で
いい1日を生きていることだ。
そんな心で、オダズモッコだが真摯な、クールだが粘っこい、軽やかだが深
いシェイクスピアを、いづまでも創っていげだらいいなぁ。
(おわり)
朝日ウィル 1999年11月16日号より