London Diary
Vol. 6
23 January 2024
Umi Shimodate
『イギリスの母、エリザベス女王陛下』
私が小さい頃からお世話になっており父の親友である演出家のジャティンダ・バーマとシアター・デザイナーであるクローディア夫妻のお宅にホームステイしていた2022年9月8日の午後15時を過ぎたあたり。
いつもは穏やかな空間にドタドタドタとジャティンダが慌てて階段を下る音が聞こえたので、どうしたのだろうとテレビのあるリビングに向かうと黒いスーツに黒いネクタイを身に付けたBBCのニュースキャスターが「英王室バッキンガム宮殿は、女王陛下エリザベス2世の死去を発表しました。」と伝えていた。
英国に留まらず、世界各国がエリザベス女王の訃報を聞き、悲しみに暮れた日であった。
同じく留学中の台湾、中国、タイ、トルコ、スペインなどイギリスに長期間住んでいるわけでもない友人たちでさえも自分の祖母をなくしたかのような気持ちになったと言っていた。わかるなと思った。
エリザベス女王は1952年2月に25歳の若さで即位し、在位70年という、英歴代君主として最長となった。
エリザベス女王の知性、ユーモア、威厳、品格、これらの要素が絶妙なバランスで満ちていて、だからこそ、多くの人が憧れ、尊敬し、愛していたにちがいない。
その日のロンドンは、地下鉄、バスの広告、建物の壁、レストランのシャッターなどには、エリザベス女王を悼むポスターや写真で溢れかえっていた。
We are closed today because of Queen.
と、だけ書かれた紙を貼っているお店やレストランを何件も見た。日本ではこんな光景を見ることは恐らくない。
悲しみと共にエリザベス女王への最大の敬意を感じる。
しかし、王位に空白はなく、次の日には朝からバッキンガム宮殿の前に大勢の人々が集まっていた。とんでもない歴史的な時期に英国に留学しに来てしまった、と思った。
新国王チャールズ3世が到着すると宮殿には”God Save the King”という大歓声が響き渡る。”God Save the Queen”から”God Save the King”に変わる瞬間、70年間というエリザベス女王が統治した長い歴史に幕を閉じる瞬間を目の当たりにし、グッとくるものがあった。
女王国葬の日には、壮大なハイドパークに生中継を映すモニターが設置され大勢の人が最期の日を見に来ていた。中継が始まると、シンと静まり返る。
エリザベス女王陛下は毎朝9時にバグパイプの音色で目覚めていたという。
これまでは毎朝、女王を起こしていたその音色。最期の時には、女王への追悼を告げる音色(「Sleep, Dearie, Sleep(おやすみ、大切なあなた、おやすみなさい)」という伝統曲)とともに眠りについた。