英国の舞台で聞くシェイクスピアは、音楽だ。RPだけでなく、様々なアクセントの英語に溢れているからだ。意味はよくわからなくとも、言葉の音のヴァリエーションから雰囲気が伝わってくる。しかし、日本の舞台で聞くシェイクスピアは標準語一辺倒で味気ない。そういう思いから、20年前、標準語と東北弁が寒流と暖流のように交わる舞台を創り始めたら、舞台は豊漁の漁場となった。東北人のための東北人による東北シェイクスピアが誕生する。『ロミオとジュリエット』で旗揚げ、『夏の夜の夢』は言葉だけでなく、設定もアテネから松島湾に変えて、本格的な翻案が始まった。『マクベス』では魔女を恐山のイタコに、『ハムレット』では、デンマークを幕末の仙台藩に、『オセロ』はムーア人からアイヌに変えて挑戦的な舞台創造に取り組んできたが、大震災を契機に、温泉三部作ー誰も死なないコメディに改編した『ロミオとジュリエット』、主人公の英国王を寿司屋のおやじに変えた『リア王』、ベニスを江戸時代の松島に変えた『ベニスの商人』を立ち上げて、これまで訪れたことのない三陸の湊を巡る旅を始めた。この公演では、四大悲劇に新作『ベニスの商人』を加えた五作品のクライマックスシーンを再現しつつ、原作から翻案に至るプロセスとシェイクスピア・カンパニー独自の観客との交わりについてお話しする。