夏山や一足づつに海見ゆる
更新日:2012.7.26
主宰 下館和巳
夏休みとはいいものだ。大人になって夏休みなんかなくなっても、夏になると、小学校で通信簿をもらって、しばらく会えなくなる友だちに「んでな~」(じゃあね)と言って、海からの潮風を浴びながら(私の塩竃第二小学校は太平洋が見渡せる山の上にあったので)、ルンルン気分で山道を降りて家に帰ったことを思い出す。ミンミン蝉の声、観光船の警笛の音、すいかのみずみずしさ、とうもろこしのつやつやした色、そうめんのつるつる感、カルピスの氷の音、風鈴の音、麦わら帽子・・・父の匂いや母の声。
いつだったか、小林一茶のこの一句に出会ってから、夏になると必ず口ずさむ。今から20年以上も前、金沢の北陸学院短大に英文学の連続講義に年に一度それも夏に通っていたことがあったのだけれど、ある日講義が終わってから玄界灘まで遊びに行ったことがあった。まっすぐの一本道が日本海まで続いていて、道の両側にアカシアの木が並んでいる。あるところから坂道になってそこをのぼって行くと、道の上に蜃気楼のように水平線が見えた。歩みをすすめる度に海がぐんぐんぐんぐん大きくなっていった時、これが一茶の「一足づつに海見ゆる」だ!と妙に感激したのを覚えている。