偶然と必然
更新日:2012.10.13
主宰 下館和巳
横断歩道を今渡ろうか次まで待とうか?という時の決断は、つまり一見してなんということもないと思われることの選択はいったい自分の人生にどんな影響を及ぼすのだろうかと考えることがある。もちろんこれは、受験や発表と言った明らかに自分の人生を左右すると思われることを念頭に置いてのことだ。
しかしこのことを、お昼に天ぷら蕎麦を食べようか、ラーメンにしようかという選択に応用して同じように考えてもどうしようもないように思われるが、そう言えばと思いだしたことがあるので、今日のタイトルは「偶然と必然」である。
1981年私は大学院の修士課程の学生だったが、故郷の兄があまりに就職のことを心配するので、仕方なく教員免許を取ることにした。それならば母校の東北学院高校で教育実習なるものがしたいと思うようになって、七月の二週間ばかり塩竃の実家から東二番町に通った。
ある朝、学校の目の前の横断歩道に向かって小走りになりながら、冒頭の言葉を思った。「横断歩道を今渡ろうか次まで待とうか?」。結局走るのをやめて待った。すると、そこに高校二年生の時に英文法を教わったE先生が現れて一緒に並ぶ。私が17歳の時は博士課程の大学院生であったはずのE先生は、その時東北学院大学英文科の助教授になられていて、それも私のことを覚えていてくださって、たまたま隣に立った私に声をかけてくれたのだ。「下館君じゃないですか?今、なにしているの」
それがきっかけで私は、今こうして東北学院にいるのだから、不思議である。あの時横断歩道を渡ってしまっていたら、私はどうなっていたのだろう?と思う。偶然は、物語が終わった時に、必然だったのかただの偶然だったのかがわかると言ったのは、ギリシャ古典学者だ。
私の物語はまだ終っていないのだけれど、あれは確かに必然の偶然だったと思うのだ。