父と娘の時間 

更新日:2012.9.27

主宰 下館和巳

 

 この夏から、長女の宇未の家庭教師になった。

これまで教えてこなかったわけではないが、私の第一の仕事は、食事をつくることで、それもできるだけ手作りでおいしいものをと考えてきたから、結局、食材とメニューのことばかり考えてきた8年といっても言い過ぎではない。だから、きちんと教えてきたことはなかった。

 乳飲み子の羽永が小学生になり、言葉が不自由だった創楽が少しづつはっきりと話ができるようになり、宇未が家事の手伝いをできるようになった今、おそらく私が考えていた最後の事、つまり勉強をみてあげる、というところにようやくたどり着いた。

 毎朝6時から7時まで、それも英語と国語だけだが、真剣勝負の1時間である。教科書ではなく、私がこれは続けられそうだと考えて選んだ参考書の英文を、まず音読させる、そして私が音読する、そしてまた音読させる。やらせて見せて、やって見せて、またやらせて見せる。それから、英語のイノチは音だぞ、と v,f/th/s,sh/m,n 更に短母音、長母音、二重母音の違いを説明し、発音している間じっと口元を見つめて間違える度に指摘する。国語は、漢字の読み書きと語彙の説明をさせ、夏目漱石の『坊っちゃん』の音読をさせる。

 本来は来年の高校入試のために始めたのだけれども、いつのまにか自分が娘に伝えておきたいことを伝える時間になってきているような気がしている。夏休みから始めて二ヶ月になろうとしているが、ふたりでひとつのことに向かっていると目に見えない絆のようなものができてきている。

 もう一つのいいことは、創楽と羽永が、姉が父と真剣に勉強している雰囲気に引き寄せられて、いつの間にか私たちのいる大きなテーブルに腰掛けて静かに本を読んでいるようになったことだ。