London Diary
Vol. 5
23 November 2023
Umi Shimodate
『若者よ、旅をしなさい、できなくても、旅をしなさい』
旅とは、なんのためにあるのだろう。
その国の人たちの魅力を知るため?食事?文化?建造物?自然?芸術?
その答えは人それぞれだろう。
ある日、こういう言葉に出会った。
“Ah! Young people, travel if you can, and if you cannot - travel all the same!” 『若者よ、旅をしなさい、できなくても、旅をしなさい!』
『八十日間世界旅行』を書いたジュール・ヴェルヌというフランスの小説家による言葉である。
ああ、たしかにな、と腑に落ちる。
教科書のなかに載っている小さな写真で学んでいた世界を実際に目にして、触れて、感じることで得られるものは間違いなくある。
そんなことを漠然と考えながら生活していたある日、
「サントリーニ島にいきましょう!」
まだスマートフォンを盗まれてから3日しか経過していない雨模様な気分の私のもとに、ケンブリッジで出会った友達から連絡があった。
この沈んだ気持ちをサントリーニ島なら救ってくれるかもしれない。と思い二つ返事で「行こう!」と送った。
夜、遅い時間帯にイア空港に着いた我々は不安に襲われた。外に出ると暗闇だけが広がり、お店もなく、街灯も少なく、タクシーもない。ホテルにどうやって辿り着こう…..と思いながら少し歩き続けるとUMI SHIMODATEと乱雑な字で書かれた紙を持ちながら少し強面のおじさんが車の前で立っていた。ホテルの送迎車だった。少し、安堵する。
約30分かけて明かりもない暗闇を走行し続けホテルに着くと、サントリーニの象徴的な洞窟のような空間の素敵なホテルへとしっかり導いてくれた。
シンと静かな夜のなか眠りにつく。
朝、ギリシャの灼熱の太陽で目覚める。まだ夢の途中かと思った。
青と白、太陽に包み込まれきらきらと輝くその景色は息を呑むほど美しかった。ここに訪れた人々が「天国のようだ」と表現する気持ちがわかる。神の創造がここにある。
「美しい」という言葉以外に美しいという感情を表現できる言葉はないのだろうかと考え込みたくなるほど目に入るもの全てが、すべてが美しかった。
街に行くためのバス停にバス時刻はあるものの待ってる人たちは正確には何時にどの種類のバスが来るか把握している人は誰もいなかった。まあ、気長に待ちましょうよ。という感じである。誰も時間など気にせず生きてる世界のようで、早送りのような日々から突然スローモーションの空間に放り込まれたような穏やかな気分になる。心地がいい。
猫や犬がそこら中で気持ちよさそうに昼寝をしている。まざってもいい?と思わず話しかけそうになるくらい、しあわせそうな顔をして寝ている。彼らにもサントリーニ島の良さがわかるのだろう。
エメラルド色の海を見に行くために、ゴツゴツ岩の階段を下っていく。
地中海のエメラルド色に透き通った海を眺めながら、これはギリシャ神話がうまれるわけだ…と納得してしまう。
中心街は島の頂上部に位置しているため、長い距離を移動するために今もまだ一つの移動手段としてロバが使われている。ロバタクシーと呼ぶらしい。少し申し訳ない気持ちになりながらもロバに跨ると「仕方ないな…」と心の声を表しているような鼻息を立ててから想像より早いスピードで階段を駆け上がっていく。
夕暮れ時、青と白の世界に足される色。
マジックアワーに心がやさしく溶かされた。
Jules Verneの言葉が反芻される。
『若者よ、旅をしなさい、できなくても、旅をしなさい』
次は、どこに行こうか。