下館和巳のイギリス日記
Vol.6 2003.2.24
近頃、気がつけば劇場か、キッチンにいる。
劇場では、必ずしも芝居を夢中になって見ているというわけでもなくて、ぼんやりと、ビールを飲んでいて、そういえば芝居をやっているんだっけ、と思う時もある。芝居が好きなのか、劇場の匂いが好きなだけなのか実は、定かでない。
キッチンでは、ラーメンのスープと遊んでいる。この場合、キッチンが好きだからだ、という感じはしない。(何を言いたいんだか僕もよくわからないけど)
ロンドンにはよく出かける。殆ど一人で。それは、劇場に一人で行くと、必ずにわか友達ができるからだ。今日なんか、幕間にパイプをくゆらしていたら、「ハァロウ!」と、 中年の女性が目の前に立っている。あんまりにこやかで親しげなので、顔を思い出せない友達かな、と自分のボケ具合を不安に思 ったが、やっぱり、アカの他人だった。
僕がどんな顔でそれに応じたのかは、彼女の顔に鏡がついていたわけでもないので、わからないが、きょとん、としていたと思う。
パブの二階にある小さな劇場で、出し物は、オイディプス。「どう?]と感想を聞かれたので、「いいねぇ」(ほんとに)と答えると 「私、デンマーク人だから、英語がわからないところもあったけど、(彼女は完璧な英語を話してるんだが)ガーンときたわ」 と、顔を紅潮させている。そうすると、若い男性が「でもコロスのカットは許せないな」と、僕たちの話に割り込んできた。
どうやら、彼は、この芝居の主役の友人の役者らしい。
僕は、劇場で、もの欲しそうにしているわけではないんだけれど、(実は すごくそう見えるのかもね)こんなことがしょっ ちゅうで、ほんとに楽しくなっちゃうのね。要するに、人が面白いんだな・・・。
わけのわからない現代劇なんかの時は、観客の顔見てる。底なしの、果てしない魔力を劇場は持ってますね。
ちなみに、ウエストエンドには52程の劇場が、オフウエストエンドには25ほどの、フリンジには36ほどの劇場がありますね。
僕がよくいるのは断然フリンジです。端っこっていうのは、エネルギィがあるのね、なんでもやったろうっていう感じ。
役者は一流と三流の混合だけれども、みんないきいきしてるのね。好きで好きで仕方がないっていう感じ。
夢中になってると、自分が教師であることも、学者であることも劇団の主宰であることも、子供の親であることも、 妻の夫であることも、男であることも、日本にいないことも、イギリスにいることも、実はいろんな問題をかかえている んだということも、電話料が未納で電話を 止められてることも(これ困るんだけど)、忘れてるのね。
生きてる、それだけね。それが、嬉しくなるのね。